出張と本

 国内に長期出張するときには海外に持って行くスーツケースと違って小さなキャリーバッグを引いての移動になるので、持って行く本はどうしても文庫本ということになります。だけど、どの文庫本を何冊持って行くかは微妙で、さっさと読み終わってしまったり、逆に全然しっくりこなかったりと、目測をあやまるときも少なくありません。

 今回の10日ほどの出張では、さはさりながら、たいした吟味もせず、井上荒野さんの新刊「切羽へ」、吉村昭さんの「海軍乙事件」、宮本輝さんの「錦繍」、そして高木彬光さんの「神曲地獄変」を持ってきました。後の2冊は既に何度も読んだことがあり、これに仕事関係の本や資料が加わります。「神曲地獄変」は、連合赤軍事件を扱った小説で、今は絶版。amazonで入手しました。

 海外出張では読む本がなくなると困るので、そもそも読みづらい本を持って行くのですが、読みづらい本には読みづらい理由があり、読んでもあまり楽しくありません。読書に倦んで、全く言葉のわからないテレビを見ながら呆然として過ごすのが常だったりします。

 今回の出張は移動も多いせいか、日程も半ばにして、するすると全部の本を読んでしまいました。だけど、国内出張で楽しいのは、仕事が終わった後とかに、旅先で小さな本屋をみつけて、ぶらぶらしたりすることが出来ること。昔、島根県隠岐に一ヶ月ぐらい出張していたときには、宿の近くの小さな文具屋さん兼本屋さん(品揃えはとても少ない)に、なぜか沢木耕太郎さんの全集だけが燦然と存在し、仕事のうまくいかなさもあいまって、結局、全部買ってしまったこともありました。

 そして、昨日。街をぶらぶら散歩していると、殆ど傾きかけた築100年はゆうに越えていると思われる木造の建物あり、よくみると本がおいてある。思わず店内に足を踏み入れると、すかさずおばあさんが話しかけてきた。「あんたは東京の人?それならこの本が良いよ」というようなことを強い方言で言われ、その呪術的な不思議な勢いに押され一冊の本を買わされた。文藝春秋、それも先月号。おばあさんにとって、なぜ東京者は文藝春秋なのだろうか・・・。

切羽へ (新潮文庫)

切羽へ (新潮文庫)