読書

出張と本

国内に長期出張するときには海外に持って行くスーツケースと違って小さなキャリーバッグを引いての移動になるので、持って行く本はどうしても文庫本ということになります。だけど、どの文庫本を何冊持って行くかは微妙で、さっさと読み終わってしまったり、…

夏の少年たち

甲子園で全国高校野球選手権が開かれているちょうど同じ時期に、全国の様々な場所を取材で訪れた。駅や空港に降り立つと、きまって地元の出場校に声援を送る垂れ幕が掲げられている。街を歩くと、ショールームのテレビから野球中継が流され、数人が立ち止ま…

「1968」「戦争と青春」「少年時代」

週末に何か本を読もうと思って小熊英二の「1968」の上巻を読み始める。小熊氏の本らしく、その頁量は圧倒的で、仰向けになって読んでいると手首を痛めそうですらある。叛乱の季節とでも言うべきあの時代の通説を、丁寧にとぎほどしていくその内容は、ま…

8月のジャーナリズム

8月がきて、今年もNHK・民放問わず戦争関連ドキュメンタリーの力作が並ぶ。居住まいを正して番組を見る。 「日本海軍 400時間の証言」「核は大地に刻まれていた」「戦場のラブレター」「康子のバラ 19歳・戦禍の日記」など。厳粛な気持ちで見る。 …

高橋和巳の小説

わが解体―高橋和巳コレクション〈10〉 (河出文庫)作者: 高橋和巳出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 1997/02メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (6件) を見る かつて、ほんの20年ほど前まで、「進歩的知識人」というジャンルがあり、論…

「運命の人」

四国へ出張する空港で山崎豊子の「運命の人」を購入。外務省機密漏洩事件を材にした小説であるが、山崎豊子の本はすぐに読めるので、行き帰りで読めてしまう。同じく現代史をベースにする前作「沈まぬ太陽」よりも、主人公の描写に陰影があるため、読後感の…

つんどく

古本屋で古い文庫本を仕入れて、つん読する。高橋和巳「憂鬱なる党派」村松友視「トニー谷ざんす」干刈あがた「ウォークインチャコールグレイ」など。系統がなさすぎて、自分の肥やしとして有効に積み上がっていかない読書である。学生のころは一冊一冊の記…

取り返しのつかない人生

最近、空港や駅で本を買う機会が多く、街場の本屋での時よりも長考がないので、失敗も多いのだが、村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」は当然ながら成功だった。 1年ほど前、久しぶりに清水俊二訳版を読んだときに、10代や20代で読んだ時とは全く別の趣…

 同期と刑事物語

ここ数ヶ月、仕事が、種類も質もばらばらで、週ごとにめまぐるしく変わる状況なので、自分が何をしているのか、ときにわからなくなるような日々である。まあ、仕事とは概してそういうものなので、これでいいのだ、という感じでもあるが、思考の連続性が確保…

 「人間の條件」

旅先で岩波現代文庫から復刊されている五味川純平の「人間の條件」を読了。 学生時代にACTミニシアターのオールナイトで映画版を見たことがあったが、9時間を超える上映時間を通して、仲代達也演じるところの主人公の運命の救いのなさに暗澹たる気持ちに…

ヒロシマ・ノート、戦争と人間

旅先で大江健三郎の「ヒロシマ・ノート」を購入。学生時代に古本屋で買って読んだような気がするのだが、読了してみると何も覚えていなかった。 僕は、この二十世紀後半の地球の唯一の地、広島の赤裸々に体現している人間の思想を記憶し、記憶し続けたいと思…

吉祥寺の古本屋

所用があっていった吉祥寺でいい古本屋に出くわす。 「東京人」や「散歩の達人」の古本屋特集などでよく紹介されている「りぶる・りべろ」。 今は東京・地方問わずどこにいってもチェーン店の古本屋がありそれはそれで重宝なのだが、やはり品揃えにこだわり…

 あのころの未来/谷口ジロー「犬を飼う」

後輩の家に招かれて愉しい時間を過ごした。同じ年だけど入社が一年違いの後輩とは、20代の半ばにお互い縁もゆかりもない土地に赴任し、3年間机を並べた。彼は、才能溢れているがゆえに、上司から理不尽な仕打ちをうけることが多かった。僕自身も、将来に…

出張中の読書

海外出張は、移動時間が長いので、日本にいるときより本を読めるのが何よりだ。 今回の出張中に読んだ本。 夏の闇 (新潮文庫)作者: 開高健出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1983/05メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 26回この商品を含むブログ (44件) を見る…

「空海の風景」を旅する

久しぶりのアメリカ出張。飛行機で隣の席に座ったサラリーマンらしき白人の紳士が、10時間近いフライトの間、ずっと漢字の練習をしていた。見るとはなしに手元を見ると、 などとノートに漢字を一心に書き取っている。紳士が柔和な感じの方だったせいか、そ…

最相葉月「東京大学応援部物語」/にっぽんの現場「告発の電話鳴りやまず」

漠然と車を走らせていると桜のトンネルに出くわした。 桜のトンネルをくぐりながら、高校生のころに中原俊監督の「桜の園」という映画を見て、女子高の演劇部の他愛ない日常の屈託を描いた小さな世界のお話なのに、「永遠」を描いている気がして、静かな感動…

絲山秋子「沖で待つ」

先日来、道を同じくしてきた同期2人と再開する機会にめぐまれた。 慣れ合うような付き合いではないけれど、芯から信頼できる畏友たちだ。今は、担当している番組のテーマも別々で果たしてそれが、それぞれにとって適性かどうかは分からないが、彼らの番組だ…

最相葉月「星新一 一00一話を作った人」

先週末から読み始めた最相葉月の「星新一 一00一話を作った人」をようやく読了。 最近、何かとばたばたで本を読む時間がとれずにいたが、圧倒的な傑作だった。 図書館にあったシリーズを全部読み終えてしまうと、ぱたりと関心を失った。 あれほど熱中した…

 企画のことを考える/「対角線上のモハメドアリ」

寒さが随分と緩んできたので、近所を散歩しながら、考え事をする。 週末に、先輩プロデューサーと先輩ディレクターと会食する機会があり、改めて大いなる刺激をもっらたので、自分の現在の問題意識と描きたいものなどを、歩きながら思い浮かべていった。 休…

 車中の親子/永沢光雄「愛は死ぬ」

昨日、最終のバスで帰宅していると、先に乗っていた親子らしき2人が大きな声で熱心に話をしているのに注意をひかれた。話の主導権は主に息子が握っていたのだが、どうやら大学生で、就職活動中らしい。この日も何社かセミナーを受けてきたらしく、いささか…

 フィッツジェラルド「ジャズエイジのこだま」/NHKスペシャル「映像の世紀」

気がつけば同じ本を何度も買ってしまうことがあるけれど、スコット・フィッツジェラルドはそんな作家だ。 この前、高田馬場の古本屋街で、定価より高い値段で絶版になったフィッツジェラルドの文庫本を買ったら、実家に同じ文庫本が2冊もあった。 フィッツ…

川崎泰資・柴田鉄治「組織ジャーリズムの敗北」

書店に平積みされていた「組織ジャーリズムの敗北」という本を衝動買いし、一気に読む。 とても重い内容で、肺腑にずしりと来た。つまりは、非日常的な事態の場合のみではなく、凪の日常において個々人がどのように振る舞うことが出来るのかが問われているの…

中野「ちどり屋」/カースン・マッカラーズ「心は孤独な狩人」

土曜日だけど、何かと調べものがしたくて出社する。人が少ない職場は、心なしか空気が澄んでいるようで、集中できるし何かとはかどる。帰りにぶらりと中野の「ぢどり屋」に行く。この店は、博多に本店があるということらしいのだけど、数年前にオープンした…

開高健「輝ける闇」

出張で三重県の伊勢に行った。三重県に行くのは生まれて初めてだなあなどと思いながら近鉄特急に乗っていて、ふと5年ほどまえに一泊二日で鈴鹿のホンダに取材にいったことがあったことを思い出した。まとまった大きな仕事に関する記憶はわりと後までくっき…

矢島正雄 弘兼憲史「人間交差点」/児玉隆也「淋しき越山会の女王」

最近、お風呂に古い漫画を持ち込んで読むようになった。昭和の時代に人気を呼んでいた漫画「人間交差点」だ。 今でもネットカフェの定番だけど、学生時代、漫画の中の"メロドラマ"に惹かれむさぼり読んでいた。先日、実家の物置から引っ張り出し東京に持って…

変わらない風景/金子光晴「どくろ杯」

実家においてある本を整理したくて2年ぶりぐらいに帰省した。新幹線から見える風景は、所々の喧噪をのぞいては変わりなく、在来線に乗り換えてからは時間が止まったような気さえした。何かにおいたてられるような東京の「時間」のことを否応なく思わされた…

 開高健「過去と未来の国々」ほか

たまっていたスクラップを精読する。新聞の<紙>の記事を丹念に読むことは、自分の中に何かを定着させてくれる。僕の年齢ではネットとはまた作業として、うち捨てることは今後も出来ないだろう。 スクラップをまとめてあとで読むといいのは、「記事」を時間…

鬱々としていた日々

本当に10数年ぶりに早稲田の古本屋街をゆっくりと歩いた。学生時代は、毎日のように古本屋をひやかし、乏しい財布の中身と相談しながら、時には背伸びしたりしていろんな古本を買っていた。佐伯一麦や松浦理英子、中野重治など戦前のプロレタリア文学、ガ…

 プロ野球の未来/ハロルド作石「ストッパー毒島」

球春到来。プロ野球がキャンプインした。今年の話題といえばジャイアンツがなりふり構わない戦力補強をしたことぐらい。1月中旬に行われたスタッフミーティングで滝鼻オーナーは「少しでもたるんだプレーをした選手は東京ドームから去れ、仮に補強で自分の…

開高健「ベトナム戦記」「サイゴンの十字架」

すっと気になっていながら、何度も頁をくくりながら、読んでこなかった本があります。 開高健の「ベトナム戦記」もそんな本の一冊でした。10代でベルリンの壁の崩壊をテレビで見た冷戦下の世界を体感しなかった世代を生きてきた僕にとって「ベトナム」とは…