企画のことを考える/「対角線上のモハメドアリ」

 寒さが随分と緩んできたので、近所を散歩しながら、考え事をする。
週末に、先輩プロデューサーと先輩ディレクターと会食する機会があり、改めて大いなる刺激をもっらたので、自分の現在の問題意識と描きたいものなどを、歩きながら思い浮かべていった。
 休みであろうがなかろうが、殆ど毎日会社に出て、新聞をめくったり、雑誌を読みあさったり、計画性なく人に会ったりと、とにかく遮二無二、企画の芽を探し回るのが数年前までの日常だった。最近でも何かに追い立てられるようなメンタリティには変わりがないけれど、街をぶらついたり、立ち飲み屋でいろんな人の息吹を感じたり、ブログを書いたりと、内省の仕方は少しずつ変わってきたような気がする。


 散歩ついでに街の図書館によって10冊ほど本を借りてくる。さっそく読んだのは、カナダのジャーナリストが書いた「対角線上のモハメドアリ」。60年代から70年代にかけてリングのみならず現代史の中心にした稀代のボクサーの評伝は数限りなくあるが、この本は、アリとリング上で対峙した13人のボクサーのその後を追ったものである。様々な意味で太陽のような存在感を持っていたアリによって、ボクサーとしての才能にも関わらず惑星であることを強いられた(強いられ続けている)人々の人生を敷衍すると、また違った時代の表情が顕れてきて興味深い。
 日本では、長島茂雄と同じポジションだったがゆえに消えていかざるを得なかった若者たちの悲哀を描いた沢木耕太郎の「3人の三塁手」などが同様の手法だが、通読しながら、ドキュメンタリーにも応用すると一直線ではなく複雑な味わいの番組が出来ると考えた。

対角線上のモハメド・アリ

対角線上のモハメド・アリ