「空海の風景」を旅する

 久しぶりのアメリカ出張。飛行機で隣の席に座ったサラリーマンらしき白人の紳士が、10時間近いフライトの間、ずっと漢字の練習をしていた。見るとはなしに手元を見ると、

などとノートに漢字を一心に書き取っている。紳士が柔和な感じの方だったせいか、そのひたむきさになんだか微笑ましい気分になる。

 機内で何を読むか、いつも迷うのだが仕事上必読の本の他に、中公文庫から出ている「『空海の風景』を旅する」を持ち込んで半分ほど読んだ。
 6年ほど前に放送されたドキュメンタリーがベースになっているが、番組を立ち上げていくまでのディレクターの葛藤がとても勉強になる。

 つまりは、「なぜ今なのか」「なぜ司馬遼太郎なのか」というふたつの解決すべき問題が目の前にあった。「まっさに今だからこそ」「司馬遼太郎がとらえたこの視点があればこ」という目の覚めるようなモチベーションが必要だった。

 「なぜ今、この番組が必要なのか」つねに自覚的に迷い続けること、そして海図を探し出すこと、その反復運動を続けること。あらためて肝に銘ずる

『空海の風景』を旅する (中公文庫)

『空海の風景』を旅する (中公文庫)