「運命の人」

 四国へ出張する空港で山崎豊子の「運命の人」を購入。外務省機密漏洩事件を材にした小説であるが、山崎豊子の本はすぐに読めるので、行き帰りで読めてしまう。同じく現代史をベースにする前作「沈まぬ太陽」よりも、主人公の描写に陰影があるため、読後感の余韻が複雑であるのは、良い。「沈まぬ太陽」は、組織で生きる身からすると、涙するところが多い小説だが、ファクトに重きをおくにしては、勧善懲悪な大映調すぎるのである。

 外務省機密漏洩事件といえば澤地久枝氏の力業「密約」が出色だ。「知る権利」という問題から男女の下半身の問題にすりかえた為政者側の狙いに易々とのったマスメディアによって、被害者としての側面が強調された女性事務官の、実は一筋縄ではいかない実像ににじりよった、「時代に翻弄される女性」をひとつのテーマにしてきた澤地氏の本領が発揮されたノンフィクションである。

 「運命の人」を読んでも感じるが、事が起こったときの大本営側からの情報に右往左往する日本のマスメディアの射程の短い脊髄反応、まったく変わりがないのだなあと自戒する。

運命の人(一)

運命の人(一)

密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)

密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)