最相葉月「星新一 一00一話を作った人」

先週末から読み始めた最相葉月の「星新一 一00一話を作った人」をようやく読了。
最近、何かとばたばたで本を読む時間がとれずにいたが、圧倒的な傑作だった。

図書館にあったシリーズを全部読み終えてしまうと、ぱたりと関心を失った。
あれほど熱中したのに、まるで憑き物が落ちたように読まなくなり、星新一から離れていった。

著者自身あとがきの中で述べているように、僕にとっての星新一も小中学生に一時期熱中して読んでいらい、まさに憑き物が落ちたように読まなくなった作家だった。
筒井康隆からタモリに至るまで、134人への丁寧な取材からは、SF作家・星新一の苦悩が浮き彫りになっていく。SFやショートショートが一段も二段も低く見られていた時代、文壇から正当な評価を受けることが出来ず、「1000話」という神話の中に自らの存在理由を見いだすしかなかった作家の孤独が胸に迫る。

最終章の妻の回想を描くシーンは、まさに珠玉である。

どうしてあの人はこうなのかしら−。
 香代子は、新一のショートショートを読み返すたびにそう思う。人がみんないなくなる。世界は滅んでしまう。静寂が訪れる。すると、機械がカタコトと動き出す。そんな物語ばかり。悲観的で、厭世的で、せつなくて、かなしくて。
 書斎に入るとこもりきりで、原稿が書けずに苦しんでいる姿は家族にさえ見せたことはなかったが、
香代子は今、こう思う。
 あの人はきっと、目に涙をいっぱいためながら書いていたにちがいないと。