車中の親子/永沢光雄「愛は死ぬ」

 昨日、最終のバスで帰宅していると、先に乗っていた親子らしき2人が大きな声で熱心に話をしているのに注意をひかれた。話の主導権は主に息子が握っていたのだが、どうやら大学生で、就職活動中らしい。この日も何社かセミナーを受けてきたらしく、いささか興奮気味に話している。
 息子が受けようと思っていると話す会社名は、どこも有名企業で、職種も様々。いろいろな業種の最新動向について実に博識である。最近の新聞報道ではかなり採用状況も改善しているように伝えられているが、僕より上の世代の就職活動の状況にまた似てきているのかななどと思って聞くともなく聞いていた。しかし、驚いたのが、その息子が今春で大学3年生になるらしきこと。自分自身が大学3年生の時は、将来なんてまったくの白紙だった。今、大学生は、少なくとも対企業に関して早熟であることを求められるのだとすると少し気の毒な気もする。
 企業の情報を幅広に知ることよりも、一冊のドフトエフスキーを読むことの方がはるかに豊かであると、学生時代は生意気にも思っていたが、もはやそんな志向は、遠い日の花火でしかないのかもしれない・・・などとバスに揺られながらツラツラと考えていた。ともあれ、母親は、何だか心配そうに、その一方で晴れがましそうに、息子の話を真剣に聞いていた。この姿だけは、いつの時代も変わらないのだろう。

 帰宅してウイスキーを飲みながら永沢光雄の「愛は死ぬ」を再読。この人は、生前、母親にずいぶん心配をかけただろうなあ・・・。

愛は死ぬ

愛は死ぬ