鬱々としていた日々
本当に10数年ぶりに早稲田の古本屋街をゆっくりと歩いた。
学生時代は、毎日のように古本屋をひやかし、乏しい財布の中身と相談しながら、時には背伸びしたりしていろんな古本を買っていた。佐伯一麦や松浦理英子、中野重治など戦前のプロレタリア文学、ガルシアマルケスや様々な黒人作家・・・、今では本棚の肥やしにしかなっていない本にこの街で出会い、むさぼり読んでいた。今はないACTミニシアターの会員となって、昔の日本映画を来る日も来る日も見ていた。当時、自分の将来に全く展望が持てず、バブルの残滓が残ったような東京にも心が躍らず毎日鬱々としていた僕にとって、古本屋街だけが救いだったとさえ思う。
出会った本の作者の多くが、自分と同年齢で作品を世に問うてることに焦燥感を感じつつも、しかし、やすやすと時間ばかりがすぎていき、自分の中に語るべき何もないことに慄然としていたあの頃の感情を、街を歩きながら思い出した。
すっかり様変わりしている古本屋もあれば、当時のまま崩れそうにながらぼんやりと存在している古本屋もあり、時間を忘れてまちあるきを楽しんだ。
アマゾンが出来て希少な本を探し出すことが容易になって便利だが、古本屋の本の高い壁の中から、何か心にひっかる背表紙に出会う時のちょっとした心の跳躍感はやはりすばらしい。
買った本。
明日への葬列 60年代反権力闘争にたおれた10人の遺志 高橋和巳編
世界をゆるがした10日間 上・下 ジョン・リード
パルタイ 倉橋由美子
どくろ杯 金子光晴
ドストエフスキイの生活 小林秀雄
吶喊 魯迅(高橋和巳訳)
フィッツジェラルド短編集(岩波文庫版)
従軍作家 里村欣三の謎 高橋隆治